常に大勢の人の中にいた。

仕方の無いことではあったが、それは決して自分にとって居心地の良い物ではなかった。

だから日が暮れた後に時々持つことの出来る「一人の時間」を当時の弁慶はとても貴重に感じていた。

「すみません」
「はい?」
「今、大丈夫ですか?」
「どうしました?」

ところが、そんな弁慶の貴重な時間をまるで狙いすましたかのように現れるのが望美だった。

「はい、その……手に又まめが出来ちゃって。それで……」
「あぁ、それは大変ですね。ちょっと待って下さい。今薬を用意しますから」
 
望美に出会ったばかりの頃は、

「若い女性が、男の部屋に一人で(しかも主に夜間)平気で訪ねてくるなんて、彼女は一体どう言った育ちの娘なのだ?」

と、酷く驚いた。
 
だが、望美にとってこれは普通の「知った男性であれば普通の行動なのだ」と気が付いた。

『まぁでも、良くも悪くも、ようするに僕は彼女にとっては譲や将臣と同列(ないしはそれ以下?)の扱いなんだろうな』
 
であれば、望美のそう言った行動をあまり深く考えない方が良い、その方が疲れない。

「はい、お待たせしました。さて、それでは見せて下さい」
「はい」

ごく当たり前に、自分に素直に手を差し出してくる。

でもこれは「手だから」と言うわけではない。

こちらが指示をすれば、ひょっとしたら衣ですらもあっさり脱ぎ捨ててしまいそうなそんな感じの素直さなのだ。

「あぁ、これはまた酷いですね」
 
そうして弁慶は、そんな望美にこっそりため息を尽きながらも、最終的には「薬師」としての職務を全うしてしまう自分に「まだまだ大丈夫」、と何故か毎回そう思ってしまうのだった。

「すみません。いつもいつも」
「いいえ、気にしないで下さい。これは薬師としての僕の仕事なんですから」

自分にとっては仕事の一つ。
望美が自分を頼るのは、薬師として自分を必要と感じてくれているから。

「弁慶さん」
「はい?」
「疲れてますか?」
「え? そんなことはないですよ」

そう返した弁慶に望美が首を傾げる。

「そう……ですか?」
「えぇ。少し眠いような気はするんですが」

そう答えたら、今度は目を丸くした。

「僕はなにか、おかしな事を言いましたか?」
「あ、いえ、その……弁慶さんがそんな風に言うのがちょっと意外だなって……」
「いやだな。僕だって人の子なんですよ?」
「すみません」





ふと思い立って昔話を書き始めました。

とても今更のようですが、でも今になって少し書けるような気がしたからです。
(7年近くも経って…なんだか自分でもよく分かりませんが突然)

でもこの時代と今を見比べるにはいいのかなぁ、と言う短いのですがちょっと可愛らしい感じのお話になっています(^−^)