【 ある夏の夜のお話 **夜の散歩への誘い編? 】


望美が「弁慶と二人だけの時間」を確保にしくいのは今に始まったことではなかった。

なにしろ二人の周りには、出会った時から常に大勢の人がいた。

その上当時の二人は、相手に対する想いの深さに、まだ自覚がなかった為、二人だけの時間をわざわざ設ける努力もすることはなかった。

『思えば私が弁慶さんと二人だけで暮らしていたのって、私が大学に行っていた二年位なんだよねぇ』

何しろ卒業とほぼ同時に、弁慶と望美の二人暮らしは、一気に四人暮らしへと変わってしまったのだ。

『でも、この状況にももう慣れっこだから、むしろ周りに誰もいない方が、おかしく思えるんだけどねぇ』

と、若干この件に関しては、諦めのような、悟りのような境地に至っている望美だった。

でも時々、しかも突然子供のように純粋且つ衝動的に、「弁慶と二人きりになりたい」「弁慶を独占したい」そう思うことがある望美だった。

とは言っても、「今の私ったら、家族の洗濯物を目一杯畳んでいる最中なんだよねぇ……」、と望美がそんな自分に呆れながら、なおも大量の洗濯物を畳んでいると、
それまで静かにパソコンと向き合っていた弁慶が、

「望美」

 と、突然、しかも笑顔で声をかけてきた。

「ん?」

「ちょっとそこまで、僕と散歩に行きませんか?」





  〜 夫婦のある日の夜の散歩のお話 〜





【 ある夏のお話 **突然の来客にはご注意を 】


「弁慶さん、暑いならエアコン、少し強くする?」
「僕は大丈夫です。でも……望美は? 望美が暑いならそうしましょうか」

そう言って、弁慶は望美の答えを待たずに、枕元のリモコンで緩くかけていた冷房の設定温度を少し下げた。

「寒いんじゃないの?」

寒いのは嫌いだが、さりとて暑い方が良いと言うわけではない。エアコンは自然の風とも違うので、その意味でも冷房はあまり得意とは言えない。
だから弁慶は、クーラーできんきんに冷えた部屋があまり得意ではなかった。

「こうしていれば大丈夫」

だがそう言いながら望美を更に抱き込む弁慶に、これではさっきより暑いじゃないか、と密かにそう思った望美だった。
でもこの感じは、嫌いではない。
いやむしろ、自分と相手の鼓動や熱が溶ける感じは、とても心地が良い。

「じゃぁもう一度、おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」

あぁ涼しくて暖かくて、気持ちが良いはずなのに、なんだろう? なんだかめちゃくちゃ夢見が悪かった……ような気がするのは、気のせいなんだろうか……?

でもこの体感温度と明るさはまだ陽が昇る前のはずである。

『よし、もう一回寝よ……って、何でとんとんしてるんだ? 寝惚けているのかな?』

望美曰く、本気で寝入っている時の自分は死んだように動かないらしい。

だがそんな弁慶と違い、望美は眠っている間も(子供程ではないが)良く動く。

だから、望美が熟睡中の弁慶を無意識(悪意は一切ない)にぶったり蹴ったりしてしまっても弁慶はまったく気付かないらしく、むしろその事に気付いた望美が謝ってくる、と言うこともあった程だ。

ではなく……

『少なくとも今の僕は、意識がはっきりしているから、これで二度寝はさすがに無理です』

なにしろこの「とんとん」は、優しく眠りに誘う心地の良いリズムではなく、むしろ「どんどんどん」と叩く感じなのだから。

「もう少し静かに、して下さいね……」
「え〜……もう厭きたんだけどなぁ」
「厭きる?」


  〜 突然のあちらからの来訪者のお話。こちらが今回のメイン 〜


以上、二本です。


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