■初めての誕生日のお話■
ウキョウと私が出会ったのは、少し遅い桜が満開の頃だった。
再会は、その年の夏だった。
神戸で出会った私たちが、東京で再会を果たすだなんて、なんて運命的なんだろう、とその時私たちは、自分たちの縁にとても感動をしこの運命に感謝もした。
でもそれから、色々な事がおきてしまった。
しかもその色々のせいで、なんと私は自分に関わる全ての事を忘れてしまっていた。
なのにウキョウは、そんな私の事を諦めずにいてくれた。
たくさんたくさん傷付きながら、それでもずっとずっと思い続けてくれた。
「ねぇウキョウ」
「ん? なに?」
おかげで私の記憶が戻り、ウキョウの中の「色々」にそれなりの決着が着いた頃には、世間はすでにクリスマスやお正月の過ごし方を考え始める時期に差し掛かっていた。
でもそれらをぼんやり考えていた私は、それよりもっと大事な事を思い出した。
「そう言えば、ウキョウの誕生日っていつなの?」
春に出会って夏に再会は果たした。
色々あって、確かに今年の夏を普通に過ごせた、とはとても言えないし、私の記憶が戻ってからもウキョウの仕事の関係で、
二人で一緒にいられた時間は、、実際そう多くはなかった。
だから私は、こんな基本的なことすらも実は知らずに来てしまっていた。
「え? あ、えっと……」
『なぜそんなに動揺するんだろう??』
「えっと……あ! そう言えば君のも俺、知らないよね?!」
「え? あ……そう言えば……」
「いつなの?」
「えっと……」
「うわ〜なんてことだぁ」と、私の告げたその日付にウキョウが頭を抱えて落ち込んでしまった。
初めての「私の誕生日」が海外出張でスルーしていた事を、知ってしまった為である。
「ごめんね! じゃなくてごめんさい。そんな大事な日の事、もっと早く聞けよ俺! って感じだよね……」
「お仕事だったんだもん、仕方ないよ。それに、私も自分の誕生日のこと、すっかり忘れていたから……」
「でも……」
「それにね、それを言ったら私だってウキョウの誕生日の事を知らなかったし、今まで聞いてもなかったわけだし……」
「いや、俺のなんかどうでも良いんだよ!」
私達は、出会いも再会もその後の事に関しても、とにかくとても運命的だった。
だから私の、なによりウキョウの願い続けた「ごく当たり前の日常」と言う物を心から(そうして二人で一緒に)楽しんだり浸れるようになったのも、ごく最近の事だった。
ただそのせいか、普通だったら当たり前の事を、知り合って、半年以上も経った今になって、知ることや聞くことも多々あった。
「でも、知らないで良いとか、知らないまんまなんて、やっぱり変だよ」
「そうかな?」
いくらウキョウの感覚が多少ずれているとは言え、それとこれとは話しが違う。
だって誕生日は、大切な人がこの世に生まれた日なのだから。
「ねぇウキョウ、ひょっとしてウキョウは私に何かを隠そうとしていない?」
「え?!」
ウキョウは基本的に嘘がつけない。
付けないと言うより、根本的に「人を騙す」と言う事が出来ない性格だった。
つまり、そんなウキョウがここまで話しを逸らそうとするからには、そこには何かしらの理由がきっとあるのだろう。(と、思う。)
「ちゃんと言ってくれないなら、今日はもう帰る」
「えぇ〜っ!? そ、それはないよぉ」
「それか、今度「彼」に聞いちゃう」
「な、なんでそうなるのぉ!?」
「……なんとなく」
そう言う意味では、目の前に居るウキョウより、もう1人のウキョウの方が本当の事を話してくれる……ような気がするから。
「もぉ……意地悪だなぁ」
「意地悪なのは、ウキョウの方だよ」
「そ、そんなぁ……じゃぁ言う。言います!」
「うん」
でも、それからがまた大変だった。
帰って欲しくないし、あいつに聞かれるのもなんだか嫌だし……等々、ウキョウの1人会議が始まってしまったのだ。
そう言えば、私と出会った頃や再会した頃のウキョウは今のウキョウともう少し違う人だった。
元々優しい人ではあったが、あまりに色々なことがおこった(見てきた)せいで、ちょっとしたことにも動揺しやすい、
私に対してのみではあるようなのだが、過保護と言うより酷い心配性になってしまったのだ。
ただ最近は、こんな風に私の前でパニック(?)をおこす程、不安を露わにするような事はめっきり減っていた。
でも多分、混乱する自分自身の気持ちに必死に何かしらの折り合いを、自分の中で自分なりに、必死につけている、と言うのがこんな時のウキョウなのだろう。
(それでも決着が付かないような時には…そのまま彼が出てきてしまう、なんてこともあるのだが……その時はその時だ。)
『でも、誕生日を言うだけでどうしてこんな風になっちゃうんだろう? そんなにすごい何かが、ウキョウの誕生日にはあるのかな?』
「えっと……俺の誕生日を伝えるに際して、君に一つお願いがあります」
「お、お願い?」
「うん……その……出来れば笑わないでやってほしいなって」
「え? ……どうして笑うの?」
誕生日を聞いて笑うとか、あるんだろうか?
「三月三日なんです」
「え?」
「三月三日なんだよ。俺の誕生日」
「……」
「え? 沈黙??」
「ウキョウがあんまり内緒にしたがるから、一体なんなのだろう、て結構ドキドキしていたから、ちょっと拍子抜けしちゃったの」
例えば、実は昨日だった、とかそう言う事だったらこれはこれで困ったろうし、後悔みたいな物も感じたかもしれない。
でもその日付ならまだ一ヶ月先なので、色々な事を考えたり計画する余地がまだまだある、と言うことだ。
「笑わないんだ?」
「笑うもなにも、そんな酷いことをする人がいたの?」
「うん。これまで結構そう言う事があったんだ」
「どうして? なんだかそれってとっても失礼じゃない?」
「いやほら、つまりね「俺」の誕生日が三月三日のひな祭りの日なんだよ?」
「あはは」
「わ、笑わないで下さいっ!!」
「ごめん。でもウキョウの言い方が、なんだかおかしかったんだもん」
「え?」
「だって、俺の、なんてそんな言い方……」
「けどさ、俺が小さかった頃、勿論海外ではそんな事はなかったけど、誕生日を言う度に、クラスメートとかによくからかわれたんだよ。
三月三日生まれだなんてぴったりだね、ってそれ何? どう言う意味?」
ウキョウ曰く、子供の頃は早生まれだったせいで、学年の中でも特に体が小さかったウキョウは、今以上に女の子と間違われる事が多かったそうだ。
そうしてそれを、どうやら本人も気にしていたらしい。
なのにそんなウキョウが、誕生日のことでそんな風にからかわれていたとしたら……話しづらかった、と言うのもなんとなくだが分からないでもない。
「だからね、俺いっつも思ってたんだ。三月三日じゃなくて、五月五日に生まれてたら良かったのに、て」
「でも、忘れられない日付だから、ウキョウはいやでも私はちょっぴり羨ましいかも」
「えぇ!? そうかな?」
「だって、私の誕生日って運動会の練習とか展覧会とか、そう言う学校行事の準備と被る秋だったから、子供の頃はそのせいで、お誕生日会なんとなくやりにくい雰囲気だったから、なんてつまらない時期なんだろう、て毎年思っていたの」
自分を含め、みんなが忙しい時期だった。
その為、家に友達を招いて「誕生日パーティー」を開く、なんて事がなんとなくやりにくい時期だった。
「だけど、それでも君にはトーマやシンがいたんでしょう?」
と、ちょっぴりつまらなさそうに呟くウキョウを、ぎゅっと抱きしめる。
「でも、小学生の頃なんて、二人の他に二人のお母さんやお父さんも一緒にいたりすることが多かったから、なんだかまるで兄弟か親戚にお祝いしてもらっているみたいだったの。けどそれはそれで嬉しかったけど、そうじゃなくて、女の子のお友達とお祝いがしたいな、て思う気持ちも実はあったの」
勿論、これは二人には内緒だけれど。
「えっと……それって今もなの? だから教えてくれなかったの?」
「ち、違うよぉ。それに今回は当日まで忘れていたのも本当だけれど、思い出した後も、ウキョウは海外だったから、我が儘言っちゃいけないかなって……」
「言って下さい。そう言うのは、遠慮しないで下さい」
「……うん……ごめんなさい……」
ちなみに、リカさん、サワ、ミネがウキョウがいなくて寂しいだろう、と私の家で盛大にお祝いしてくれたので、まるっきり一人だったと言うわけではない。
ただ、女の子ばかりとは言えウキョウ以外の人と過ごしてしまったことには違いがなかったので、なんとなく言うことが出来なかった。
「あ! そうじゃなくて、今はウキョウの話し。私の今年の誕生日はまだ半年以上先なんだから!」
「あぁ……普通で良いよ、普通で」
「もぉ……せっかく二人で迎える最初の誕生日なのに……」
「だからこそ、だよ」
「でもね、せっかくの誕生日なんだし、それじゃぁつまらなくない?」
「そうかな? 俺、家でずっと君を見てるだけでも幸せだけどな」
「……」
なんなんだそれは……と、言いたかったが言えなかった。
だって実際、そんな時のウキョウはとても幸せで、見ているこちらまで嬉しくなってくる程だから。
ただウキョウは良くても、それでは何となく、私の気が済まない。
「ねぇウキョウ」
「ん?」
「もし良かったら、その頃……誕生日ぴったりは難しいかもしれないんだけど……」
「なに?」
あぁどうしよう。言ったら笑われるだろうか?
「笑わない?」
「うん」
「ほんとに?」
「うん。だから言ってみて?」
「えっと……ウキョウと私が出会って春がくると丁度一年になるよね?」
「そっか……一年かぁ」
「うん」
ウキョウの体感年数は、実際には、もっとずっとあるらしい。
でもこれからは、一緒に年を重ねて行くこと出来るので、今回は「私の時間」に合わせてもらおう。
「あ、じゃぁ記念になることをしたいよね?」
「そうなの。だからねウキョウ、私と一緒に……その……神戸に行かない?」
今のこの勢いで言ってしまわないと、なかなか言えそうになかった事を私はここで思い切って言ってみた。
すると、そんな私をウキョウがぽかんとした顔でみつめてきた。
「え? あの……」
けれども次の瞬間、とても大きな声で笑われてしまった。
「笑わないって言ったのに」
「ご、ごめん。さっきの君と一緒で、何を言われちゃうのかなって、すっごくドキドキしていたんだよ。それなのに、君があんまり嬉しいことを言うから、つい」
「ひどぉい……」
「ごめんなさい。でも本当に良いの?」
「はい。あ、でもウキョウの誕生日の話しだったのに、話しがそれちゃったね」
「良いんだよ。だって、それってすっごく嬉しくて、幸せな提案だから」
一つの場所に定住する事の少なかったウキョウの人生の中にあって、祖父母の家があった神戸はウキョウにとって、とても特別な場所だったらしい。
それが、私と出会った街と言う事で、更に大切な場所になったのだ、と以前教えてくれた時にはなんだかとても嬉しくなった。
だから思い切って誘ってみたのだ。
私達の原点でもある、神戸に行ってみる事を。
「行こう! 是非行こう! で、今度はもっとゆっくり君を色々な所に連れて行ってあげたい」
「うん。楽しみにしてるね」
「任せてね!」
そう言って、ふいに伸びてきたウキョウの腕が私の頭を引き寄せる。
「誕生日とか年を取ることって、昔はとてもつまらない事だと思ってたんだ。でも今は、ちゃんと年を取れる事って、実はものすごい事なんだなってそう思うんだ」
短い期間の中で死と再生を繰り返す。
私には、そんなウキョウの痛みや苦しみを、決して知ることが出来ないし、きっと理解する事も出来ないのだろう。
それでも私は、いやだからこそ私は、そんなウキョウの気持ちを少しでも多く知りたかった。
少しでもウキョウに近付きたかった。
だから私は、ウキョウのどんな言葉も決して聞き逃すことだけはしたくなかった。
「これからは、ずっと一緒に年を取って行こうね」
「……ねぇ君、それってすっごい台詞だと思うよ?」
「え?」
「だってそうでしょう? 一緒に年を重ねよう、なんて……まるでプロポーズの台詞だよ」
「え? えぇ?」
と、私の耳元で呟くウキョウに思わず頬が熱くなる。
「でも……ありがとう」
『色々、有難う……』
「見ててね、俺がちゃんと年を取っていく様子を」
「うん。でもウキョウも見ていてね。私の事を」
「勿論」
見届けよう
互いの生きる姿を……
願おう
その時が一日でも先であることを
こちらはラブコレにて無料で配布していたものでした。
ただ、あの時とにかく時間がなくて、ざくざく書いてしまい、
これはもう絶対改訂せねば、となったら……こんなに間が開いてしまいました。
誕生日2ヶ月も過ぎてしまったよ…
その間にクラウドも出てしまい……
改めて、ウキョ主好き!と……
でも本当に好きなんですよね。
ただだからこそ……書きにくいです(若干後悔中)
とは言え今の時点(=なんだか不慣れ過ぎる…)で直せる迄直してみたので
幾らか…当時よりはすっきりしたと思います。
(おかげで、もし元がありましたらかなり内容が違っていることにも分かってしまうかと思いますが、どうぞお許し下さい。)
20130508
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